様々なフィールドで、その稀有な存在感を鮮烈に残してきた中村 中が、東京・新宿FACEにて、4月12〜14日の3日間に亘る特別公演『LIVE 2018〔三面鏡の女〕』を行った。これは歌手、作家、俳優という三つの顔を持つ彼女が、それぞれの場で生み出した、または出会った楽曲を、弾き語りのスタイルで披露するというもの。これまでにない試みだが、中村 中の多面的な個性が周知された今のタイミングだからこそ、実現した演目と言っていいだろう。

 幸運にもその最終日を体感することになったが、結論から言えば、そこで感じたのは、表現者としての彼女の揺るぎなき根幹だった。冒頭のシーンだけでも、その奥深さがわかる。暗転したステージに拍手で迎えられた中村 中は、深く一礼してから、アコースティック・ギターを手にして「かくれんぼ」と「裸電球」をまず披露した。暗めの照明の下で、弦を爪弾きながらじっくりと届けられる歌。シンプルな構成であるがゆえに、ちょっとした息遣いまで聞こえてくる。『天までとどけ』『私を抱いて下さい』という初期2枚のアルバムからのセレクトは、いわゆる“プロ”として歩み始めた自身の歴史も思い起こさせるが、何よりも歌と声、そして言葉が圧倒的な説得力を有している。

 以降はその印象が確信へと変わっていく時間となった。それぞれ舞台『ハダカ座公演vol.1「ストリップ学園」』『FILL-IN 〜娘のバンドに親が出る〜』に書き下ろした「儚い世界」「The Branch Road」では、ソロ公演ならではの呼吸で見事に歌い上げていく。もともとは舞台用に書いた楽曲が、明らかに別なるものへと昇華していった瞬間だったかもしれない。彼女にとって、歌手とは「自分の愚かさと向き合うもの」であり、役者とは「違う人間になれる冒険」なのだとも語っていたが、元を辿れば不可分である両面が混ざり合った音塊となったのが、この2曲だった。

 さらに興味深さを増したのは、作家として提供した「天使じゃないけれど」(大竹しのぶ)と「命のブルース」(八代亜紀)だ。歌詞に綴られた聴き手の内面に迫り来る独特の物語も相まって、中村 中が歌えば、完全に彼女の世界である。それでいて、大竹しのぶ、八代亜紀が歌う姿も想起させるから面白い。“三面鏡”に映る自身が“同時”に並立するセットになった。


 今回の公演では日替わりで“遊び手”と呼ばれるゲスト・ミュージシャンとのセッションも予告されていたが、初日のTOKIE(Bass)、二日目の真壁陽平(Guitar)に続き、この日はOhyama“B.M.W”Wataru(Trumpet/元PE’Z、BimBomBam楽団)が客演。中村 中が期待する、「三面鏡に映らない自分」がどのように表出してくるのか、最大の見どころはそこだった。アコースティック・ギター/キーボードとトランペット。ただ、器楽的なジャムというよりも、あくまでも歌と向き合ったOhyama“B.M.W”Wataruの演奏が、中村 中の醸し出すムードを際立たせていく。痛切さも妖艶さも刹那さも、その場限りの声と音の重なりで、新たな力強さを獲得する。無論、「白夜」や「雨のロマンス」のように躍動感のあるリズムによって享楽的に盛り上がれる楽曲もあったとはいえ、一瞬たりとも聴き逃がすまいといった緊張感が、オーディエンス側に生まれているように見えた。なお、ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で独唱した「The Long Grift」のジャズ/オルタナティヴなアレンジが、彼女に似合っていたことも特筆しておきたい。



 「一人だと出来ない顔があります。自分では作り出せなかったりします。これからもたくさんの刺激をもらって、歌い続けていこうと思います」。そう振り返った貴重なセッションの後、本編は「死ぬなよ、友よ」の弾き語りで締め括られた。

 アンコールでステージに呼び戻された中村 中は、新曲を初披露。ここでもOhyama“B.M.W”Wataruが再び演奏に加わった。コミカルな印象もある3拍子の楽曲だ。音源化された際に深く読み込んでみたいが、彼女が歌うからこそ、多様な意味付けを聴き手に与えるマテリアルは少なくない。実際、彼女より年上世代の観客も多いのは、人生の酸いも甘いも噛み分けてきたからこそ、より感じるものがあるからに違いない。



 鏡像は本当の自分なのか否か。そんな禅問答のような問いも浮かべながら堪能した“三面鏡の女”の世界。今の中村 中は、その映し出される姿を存分に謳歌しているように思える。新曲の最後に“私の名前は何だっけ?”と歌ったように、核心に近づいたように見せかけて、また離れてゆく。これからも変幻自在な表現者たる、天性の天邪鬼ぶりを楽しませてくれそうだ。

土屋京輔

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