お使いのブラウザはJavaScriptに対応していません。

LIVE2016 生まれ変わろう、そして ライブレポート

live2016_001
中村 中 “LIVE2016 生まれ変わろう、そして”
2月14日 日本橋三井ホール

中村 中が昨年11月にリリースした7枚目のアルバム『去年も、今年も、来年も、』を携えたバンド編成でのライヴが、お馴染みの日本橋三井ホールで、2月13・14日の2日間にわたって行なわれた。今回のアルバムは「四季折々の、上手くいかない恋愛歌集」というコンセプトで、公演が行なわれたのはちょうど寒さが収まった小春日和の週末。ここではまさに季節の変わり目を告げる春一番が吹いたと気象庁が報じた14日のステージの模様をレポートする。

ステージ上手から順に平里修一(ds)、イシダジュン(b)、渡辺“番長”淳(g)、北名“Robin”弘一(key)と並んだメンバーを従えて、まず彼女が歌ったのは、新作アルバムを締め括っていた「晦日」。コートに身を包み、背筋を伸ばしてマイク・スタンドの前に立ち、帰省を見送った後の女性の孤独な心象風景を穏やかに歌う。それに続く「風立ちぬ」は、2008年のシングル。見送られる女性の視点で描いた楽曲だが、曲調の盛り上がりに連れ、それまでの歌い方から一転して、マイクを力強く掴み、エモーショナルなヴォーカルを披露する。彼女ならではの緩急自在のパフォーマンス力と歌手としての実力を発揮した幕開けだ。

live2016_002このタイミングで最初のMCを入れ、この日のステージを“季節を巡る旅”として構成すると説明した彼女はコートを脱ぎ捨て、真っ赤なノースリーブのワンピース姿に。春のパートの始まりだ。新作からの「木の芽時」に続けて、ベースのイントロが印象的な「ここは、風の街」を聴かせてくれた。

夏のパートは、新作収録の「その日暮らし」のスカのビートで季節感を醸し出し、海へ向かう不穏なドライヴを描いたセカンド・アルバムの収録曲「AM零時」、そして海の思い出を綴った最新シングル「ここにいるよ」という流れ。つまり新曲とお馴染みの曲の組み合わせで、新しい物語を紡ぐ進行になっているのだ。

このあとの2曲は“生まれ変わろう、そして”というライヴ・タイトルにちなんで、新しいアレンジで生まれ変わらせたナンバーを、夏休みの宿題のようにお披露目するという趣向。デビュー・シングル「汚れた下着」はラテン風味に改め、2014年の『世界のみかた』のラスト・ナンバー「愛されたい」はレゲエをベースにした音作りへと生まれ変わっていた。特に後者はアレンジの胆になっているベース・ラインが印象的で、後半のMCで明かしてくれたところによると、今回のバンマスはベースのイシダジュンが務めているとのこと。

さらに秋のパートもやはり新曲で旧曲を挿む組み立て。ピアニカを手にした「クヌギの実」から「思い出とかでいいんだ」、そして夏の思い出を秋に噛み締める光景を描いた「閃光花火」へと至ったところで、客席の空気は弾けはじめる。ベスト盤『若気の至り』のみの収録曲「まだ熱いくちびる」に続いて、『聞こえる』からのファンキーなロック・ナンバー「DONE!DONE!」が始まると場内は総立ち状態となり、さらに最新シングルのカップリング「暗室」へ。

live2016_003ここで熱気に満ちた客席を前に、ツアー・グッズのハンケチ<花物語>を使って振り付けの練習をしてから「未練通り」。前半では緩急の起伏に富んだ流れに、じっと聞き入っていた観客も、今では嬉々としてパフォーマンスに参加して一体となっている。そして新作収録のクリスマス・ソング「逢いびきの夜」で、季節が冬へと一巡したところで本編は終了した。

アンコールでの彼女はツアー・グッズのTシャツ<左心臓>を着て登場し、定番となっている「友達の詩」を歌う。赤から白へと視覚的にも鮮やかな転換だ。だがそれに続くラストでの彼女の振る舞いも、さらにさらに印象的だった。

彼女自身の説明によれば、『去年も、今年も、来年も、』というアルバムは、「苦しい時でも、いつも通りに存在する四季のように、聞く人の側にいられるようなラヴ・ソング集」。今回の彼女はこれらの楽曲を、過剰にエキセントリックだったりドラマチックだったりする演出に頼ること無く、歌に専念するシンプルなステージで提示したかったのではないだろうか。これは派手なギミックを封印するストイックな行為であり、同時に歌手としての実力がなければ選べない選択肢でもある。

ちなみに筆者には、こうした選択は2005年の『聞こえる』で“脱力”というキーワードを掲げたことの延長上にあるように感じられてならない。そしてその挑戦は、序盤の2曲でも触れた通り、今回のステージのさり気ないが濃密な歌心により見事な成果をあげていた。

 

live2016_004「死ぬなよ、友よ」は、アンコール最後のナンバー。ここで彼女は、こうしたライヴの流れを経た後に、この日初めてアコースティック・ギターを手に取って歌いだした。ファンならよくご存知のように、中村 中はギター、ピアノ、ドラムスも演奏する優れたマルチ・プレイヤーでもあるが、今回の公演における彼女は、部分的にマラカスやピアニカを手にする場面はあっても、基本的な演奏はメンバーに任せ、ヴォーカルに専念していた。それだけにこのコントラストもとびきり美しい。ずっとヴォーカルに専念する姿を堪能したあとだけに、こうして彼女がギターを奏でるシーンを見たいと思ったのは、決して僕だけではない筈だ。

基本的に楽器の演奏が巧みな者は、ステージでついつい楽器を弾きたくなるものだと思う。だが今回の彼女は、そうした自分のプレイヤーとしての欲求よりも、もっと優先すべき課題のために、あえてそれを抑えて本編を終了。その結果、観客から「彼女がギターを弾いているところを見たい」という欲求を引きだして、それを適える形でライヴを締め括ったようにさえ感じられる。

 

『去年も、今年も、来年も、』のオープニング・ナンバー「散らない花物語」のインストをBGMに流しながらステージを去っていく後ろ姿は、“生まれ変わって新しい春を前向きに進む”というメッセージを、無言のうちに伝えてくるかのようだ。

僕が今まで見た彼女のライヴの中では、今回の演出などはかなり控えめな方だったと思う。だが歌手として自らに課した課題を見事にクリアーしたのに加え、自分自身の欲求を発散するのではなく、むしろ観客に欲求を芽生えさせて、さらりとそのとおりにステージでやってのける振る舞いは、まさに奥深いエンターテイナーである彼女の凄み。思わず体中がゾクッとしてしまった!

ここまでの高みに到達したのだから、今後はマルチ・プレイヤーぶりを発揮した奔放なステージングなどもありなのではないだろうか。

志田 歩
写真 渞 忠之

 

LIVE2016 生まれ変わろう、そして SETLIST

Day 1

01 晦日
02 風立ちぬ
03 木の芽時
04 ここは、風の街
05 その日暮らし
06 AM零時
07 ここにいるよ
08 汚れた下着
09 愛されたい
10 クヌギの実
11 閃光花火
12 あたしを嘲笑ってヨ
13 まだ熱いくちびる
14 DONE!DONE!
15 未練通り
16 逢いびきの夜

Encore
01 友達の詩
02 死ぬなよ、友よ

Ending BGM 散らない花物語

Day 2

01 晦日
02 風立ちぬ
03 木の芽時
04 ここは、風の街
05 その日暮らし
06 AM零時
07 ここにいるよ
08 汚れた下着
09 愛されたい
10 クヌギの実
11 思い出とかでいいんだ
12 閃光花火
13 まだ熱いくちびる
14 DONE!DONE!
15 暗室
16 未練通り
17 逢いびきの夜

Encore
01 友達の詩
02 死ぬなよ、友よ

Ending BGM 散らない花物語

ツイート
Twitter
@ataru_nakamura
@ataru_mngr
Facebook
中村 中 公式Facebook
  • 中村 中 LIVE 2016 生まれ変わろう、そして ライブレポート
  • bayfm 78.0MHz よのなかばかなのよ 毎週木曜日 23:00~
  • テイチクエンタテインメント
PageTop